鋳物(ダクタイル・FC材)へのカチオン電着塗装:表面処理の工夫

目次
第1章:鋳物にはカチオン電着塗装が難しい?密着不良の原因を解説

1. 鋳物の基本特性と電着塗装の相性
鋳物(キャスティング)は、溶かした金属を型に流し込んで成形する製造方法で、ダクタイル鋳鉄(FCD)やFC材(ねずみ鋳鉄)が代表的です。
強度や振動吸収性に優れ、工作機械部品、建設機械、バルブ、ポンプケースなど幅広い産業で使用されています。
一方で、鋳物は「表面が粗い」「鋳巣(気泡・空隙)がある」「炭素や油分を多く含む」という特徴を持ち、これがカチオン電着塗装との相性を難しくする要因となります。
電着塗装は電気的な反応で塗料を付着させる仕組みのため、表面の導電性や清浄度が低いと、塗膜が均一につかず、剥離・ピンホール・ムラなどの不良を引き起こします。
2. ダクタイルとFC材の違いが塗装品質に影響する
同じ鋳物でも、ダクタイル鋳鉄(FCD)とFC材では組成が異なります。
ダクタイルは球状黒鉛を含み、靭性と導電性が高めですが、FC材は片状黒鉛が多く含まれ、表面に微細な炭素膜が残りやすいという特徴があります。
この黒鉛(カーボン)が電着槽内で絶縁層のように作用し、電気が通りにくくなることで塗料が十分に吸着しないことがあります。
さらに、黒鉛が酸化してできる「スケール層」や「黒皮(酸化鉄皮膜)」が残っていると、塗膜の密着不良を引き起こします。
特にFC材はこの傾向が顕著で、表面の油分やカーボン残渣を取り除かないまま塗装を行うと、乾燥後に塗膜の浮き・剥離・気泡の発生といったトラブルにつながります。
3. 鋳巣・黒皮・酸化スケールが密着を妨げる理由
鋳物のもう一つの大きな課題は「鋳巣」と「黒皮」です。
鋳巣とは、鋳造時に金属が冷却される過程で発生する微細な空洞のことで、この中に油分やガス、水分が残留すると、電着塗装中の電圧印加で気泡が発生します。
この気泡が塗膜を押し上げ、ピンホールやブリスター(膨れ)の原因になります。
また、黒皮(ミルスケール)と呼ばれる酸化被膜が残っていると、表面が導電しにくくなり、塗膜が部分的に乗らない、またはすぐ剥がれるという現象が起こります。
このため、鋳物を電着塗装に適用する際は、黒皮を完全に除去し、素地金属を安定させる前処理(ショットブラストや酸洗い)が欠かせません。
4. よくある不具合とその原因
鋳物へのカチオン電着塗装では、以下のようなトラブルが代表的です。
・ピンホール・気泡:鋳巣に残ったガスや油分が塗装中に膨張。
・塗膜の剥離:黒皮や炭素膜の除去不足により、塗膜が密着できない。
・ムラ・厚膜不均一:導電性の差によって電着反応が不均一に進行。
・白錆・腐食:含有成分の影響で塗膜下に水分が侵入しやすくなる。
これらの不具合は、素材自体の性質に加え、「前処理不足」「乾燥工程の温度ムラ」「塗料選定の不適合」など複合的な要因で発生します。
特に、脱脂が不十分なまま電着に入ると、鋳巣内の油分が塗料槽に混入して品質全体を劣化させることもあり、工程設計そのものの見直しが必要となります。
鋳物(ダクタイル・FC材)へのカチオン電着塗装は、素材特性が大きく影響するため、「鉄板と同じ条件ではうまくいかない」のが現実です。
炭素残渣・黒皮・鋳巣・油分といった鋳物特有の課題を把握し、導電性・表面清浄度を高めるための前処理を適切に行うことが、密着性確保の第一歩です。
次の章では、実際に密着性と外観品質を両立させるための「前処理・塗装条件の工夫」について、現場で使える具体的なノウハウを解説します。
第2章:密着性と外観品質を両立させる前処理と塗装条件の工夫

1. 鋳物専用の前処理フローが重要
鋳物へのカチオン電着塗装で最も大きなポイントは、「塗る前にどれだけ下地を整えられるか」です。
鋳物の表面には、黒皮(酸化スケール)や鋳巣内の油分、炭素残渣などが多く存在するため、鉄やアルミと同じ前処理では不十分です。
そのため、鋳物専用の前処理フローとして以下のような工程が一般的です。
1.ショットブラスト処理
表面の黒皮や酸化物を物理的に除去し、導電性と密着面積を確保。
2.アルカリ脱脂
表面および鋳巣内の油分・グラファイトを除去。長時間処理で鋳物内部の油分まで抜くことが重要。
3.酸洗い
酸化皮膜を溶解除去し、素地を露出。過剰反応による粗面化を避けるため、濃度と時間を細かく管理。
4.化成処理(リン酸塩またはジルコニウム系)
電着塗料が密着しやすい化学皮膜を形成し、塗装前の導電安定を図る。
この一連の処理により、鋳物特有の「導電ムラ」「塗膜剥離」を防ぎ、安定した下地づくりが可能になります。
2. 含油・鋳巣への対策と乾燥工程の最適化
鋳物内部には微細な鋳巣があり、製造過程で油や水分が入り込んでいることがあります。
これが残留したまま塗装を行うと、電着時の加熱でガスが膨張し、ピンホールやブリスター(膨れ)を発生させる原因になります。
そのため、前処理後には高温乾燥(100〜150℃、30分〜1時間)を行い、内部に潜む水分や油分を完全に除去することが不可欠です。
乾燥工程は「ただ乾かす」のではなく、「ガス抜き工程」として設計するのがポイントです。
また、鋳巣が多い製品では、電着前に真空脱脂やベーキング処理を併用することでトラブルを大幅に減らすことができます。
3. カチオン電着塗料の選定と塗装条件の最適化
鋳物は表面が粗いため、塗料の浸透性とレベリング性が品質を左右します。
そのため、塗料選定では「低粘度で厚膜形成が可能」「凹凸追従性に優れる」タイプを選ぶことが推奨されます。
塗装条件としては、
・電圧:150〜200V(素材・形状により調整)
・塗装時間:1〜3分
・槽温度:28〜32℃
が一般的な目安ですが、鋳物の場合は電流が局所的に集中しやすいため、電圧をかけるスピードをスロースタートにする事が重要です。
電着後の焼付工程では、鋳物の熱容量を考慮し、通常よりも長めの加熱時間(170〜180℃で30〜40分)を取ることで、塗膜内部までしっかり硬化させることができます。
4. ピンホール・剥離を防ぐための実践例
実際の現場では、鋳物の種類や形状によって最適条件は異なります。
たとえば、ポンプハウジングやブレーキキャリパーのような中空構造物では、エア溜まりによる通電ムラが発生しやすいため、
塗装治具の設計や電極位置の最適化も密着性向上に直結します。
また、塗膜剥離対策としては、前処理後に試験片を使ってクロスカット試験・耐湿試験を実施し、条件を数値で管理することが有効です。
これにより、製品ごとの「最適電着プロファイル」を確立でき、量産時の品質変動を抑えられます。
5. 品質安定とコストの両立
鋳物の電着塗装は、他素材よりも工程数が多く、コストも上がりやすい傾向があります。
しかし、トラブル対策を事前に徹底すれば、再塗装や不良対応のコストを大幅に削減できます。
特に効果的なのは、
・槽の濾過・循環管理の自動化による不純物除去
・前処理の温度・pHモニタリングのデジタル化
・サンプル塗装での密着試験による条件フィードバック
これらを継続的に行うことで、量産ラインでも鋳物製品の安定した品質が実現できます。
鋳物へのカチオン電着塗装は、表面の難処理性や鋳巣によるトラブルを克服するために、前処理と乾燥工程の設計が最重要です。
さらに、塗料特性と塗装条件を最適化し、治具や電極位置の工夫まで含めて総合的に管理することで、
密着性・防錆性・外観品質をすべて両立することが可能になります。
鋳物製品の外観品質に課題を感じている場合は、塗料の種類を変える前に、まず「前処理工程」と「乾燥条件」の見直しから始めるのが成功への近道です。
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